#25
台湾の3か国合同司令部(盗聴本部)からもたらされた情報評価書は,直ちに伝達された。それを受け取った一人である飯野田首相は,秘書から渡された機密文書を睨みながら,寝室を出て再び通路を歩いて居た。
部屋に入った。事前に情報が漏れない様,最近の軍事関係のやり取りは厳密に規制を設けた。例えば外部では関連する会話が全て厳禁とされたが,現状は功を奏したと言える程機密管理は完璧だった。
「対応は?」
入って来るなり告げた。
「報告書によって支那共産軍の脅威が増大露呈した為,対シリア作戦でヨルダンに駐留させて居る多国籍軍をシリア部隊に増派し,支那首脳の牽制を図って居ます」
中東作戦の日本代表を務めた空将が言った。彼は戦闘機編隊を指揮した後,輸送任務の戦略性を重視...冷戦時代,戦争や同盟国の危機に輸送任務で対処した米空軍の活動を根拠にし,前職の編隊指揮官当時の幕僚部に評価されたのだった。今回の抜擢に直接影響した要素でもある。
「うむ。それで良い」
飯野田首相は,空将や中東の自衛隊を褒めた。予め決められて居た,緊急対処要領に沿った措置...今回露呈した支那の対台方針は緊急項目の上位だったので,可及的に執り行われた非常作戦は賞賛すべきである。
「それで,どの位進撃したのかね?」
飯野田首相は付け加えた。
「は。まだ越境し攻撃を始めたばかりですが,シリア領内2か所にて各々敵1個バッテリー(砲兵中隊)を制圧,続いて同じく3個プラトン(小隊)と交戦しておりますが,優勢との報告です」
空将は出来るだけ手短(てみじか)に答えた。
「中東対策の諮問会の報告では,航空部隊を制圧し,敵地を利用すれば一気にかたが付くと聴いたが,どうかね」
「はい。それはそうですが...」
「何かね」
飯野田首相が訝った。空将が答える。
「はい。問題は,シリアを実効支配,あるいは占領するおつもりかです。シリアを落とすのは軍拡後の自衛隊には難しく無いと思いますが,この戦争,支那を攪拌(かくはん)させる為の代理戦争と聴いております。各国でもインドネシアの協議で合意済み...このまま部隊を送り続けるのか,一旦引き止めさせるのかです」
飯野田首相は口を開いた。
「私は戦後の自虐的な政治を悲観し,嫌悪して居る。戦前にはそれなりに短所はあったが,私は基本的には踏襲したいと考え,あの日大変革を期した。総理に抜擢される以前から,中枢各界に根回しし,軍拡を実現した。今の日本は,畏れ多くも振るわざるとて明治の日本帝国に近付いたと自負して居る」
飯野田首相は強気の姿勢を改めて示した。そしてためらわずに続けた。
「それに,今引けばシリアから反撃されるのでは無いかね?我々が例え他国に進駐しても,戦前戦中に倣って白人達が出来なかった,有用的な政治活動をさせるつもりだ。全力投球,それが我が内閣が保有する軍事方針だよ」
空将は不安な表情を拭えずに居た。しかし飯野田首相は尚も言う。
「明治の日本は,戦力比で脆弱にもかかわらず,ロシア帝の最大戦力バルチック艦隊を殲滅したのだぞ。かのロシア帝を滅亡寸前まで追い詰めた日本人の血を引く我々だ。核も配備するし,後は日本人が住み良い世界を実現するだけだ。今世界の中心に居るのは,我が日本国だよ」
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テーマ : 自作連載小説 - ジャンル : 小説・文学
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