◆小説:::deC(ディーイーシー)の野望◆
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<<1 イギリスの反ブラウン派議員同盟は,イギリス各地の重機会社の役員との会合を続け,議会の多数派工作を着々と進めて来た。20世紀前半に起きた2度に渡る世界大戦で疲弊したイギリスは,名だたる世界帝国主義を捨て,栄光の座をアメリカ合衆国に譲り出す屈辱を目の当たりとした。
しかし今は21世紀だ。アメリカの軍需業界も衰退し始めており,今を逃して機は無い。ただしイギリスにとって最大の弱味は,国土の小ささである。香港を返還(政党政治が異なって居るから実際には割譲が正しいが)する前は極東や東南アジアにも影響力を行使出来たが,今は多くの植民地を放棄するに至って居る。アイルランド問題も打開出来ない現状では,イギリスが再び世界に台頭する日は遠のくばかりだ。
そんな時だった。ロシアがイギリスに対し,北海開発においてロシア側の港の使用を申し出て来たのだった。イギリスは不審に思い諜報活動を展開したが,ロンドンのロシア大使はいたって友好的だった。政府は状況が全く危険で無い事から,王室の指示次第で事業を展開する事にしたところ,王室はイギリスの経済不安をあえいで居た事もあって可及的に裁可してくれた。
だが,ロシア側からも要求があった。ロシアの港を使うからには,イギリスも軍拡をし,西部太平洋への進出計画を議会で可決させろ,と言う事だった。イギリス外務省の予想通り,ロシアの計らいには日本政府が大きく絡んで居た。とは言え,財務省が事前の秘密調査で北海の新エネルギーを発見したのだから,それをテコにすれば軍拡なり政治工作なりするのは簡単と考えたのだった。
残る問題はいたって単純明快。ブラウン政権を崩壊させ,ブレア勢力の多数派工作を行い,保守政権の樹立を宣言するのだ。
ロンドンから遠く離れて居ても,今はネットワークが確立されて居るから瞬時にして情報交換が出来る。MI-6と誤称される事の多いSISは,イギリスきっての諜報機関だ。冷戦が終結しても同機関の存在はイギリス国内で機密事項扱いのまま。
現職のSIS長官はハイテクを嫌って居た。だから,ネットワークと言ってもTV電話では無くEメールに限定されて居た。その為,ここ支局の通信室はほとんど使われない図書館の事務室の様で殺風景である。
「予定通り,シリア軍のアッハヒーミ将軍を捕縛しますよ。最終確認ですが,宜しいのですよね」支局長が尋ねる。彼は支局長であると同時に,緊急編成の特殊捜査班の要員でもあるのだ。
『その話は無しだ。いいかね,無しだ。絶対に決行しては為らん』長官は何度も念を押すが,支局長は耳を疑った。
「何ですと...。中止ですか。何故です」支局長自らEメールを送信する。
『政権には,アッハヒーミを捕らえない方針が決定されて居るのだよ』
「アッハヒーミは軍人である以上に,アルカイダに資金,武器援助を続けて来た指名手配犯ではありませぬか。何故捕縛を中止するのです」
長官の回答はシンプルだった。『本国は複雑だ。君が赴任して居る間にマンションが幾つも建て替えられた。政治はもっと加速度的に進んで居る。過去の事にとらわれ,先入観にまかせて居ても利益は生まない。大切なのは,時代に自分が合わせる事なのだ』
「中止宣言は承知しましたが,アッハヒーミ全体に付いて作戦中止なのですか」
『アッハヒーミ勢力はまだ追い続ける。それに際して,君らにはヨルダンに出来たブリテシアン工業のアンマン営業所と協力してシリア軍を牽制して欲しい。シリアはレバノンから撤退したが,自衛隊や連合軍による侵攻作戦がシリア軍内で将校による叛乱に繋がって居る。一派が再びレバノンに進駐する可能性があるのだ。同盟国として,レバノンをヨルダンから支援する。必要なら帝国はシリアに対する空爆も辞さぬ考えだ』長官はそこで話を区切った。『くれぐれも誤解しないで欲しいが,これはアッハヒーミ捕縛の断念では無く,別方向からのアプローチと考える様にしてくれ』
「では,作戦は中止と言う事ですね。分かりました。しかし,血気盛んな若い連中は落胆するでしょうね。彼らはまだ人を殺めた事がありませんから,とても楽しみにして居たんですよ」
『今度からはそんな事も言えない程過酷な生活を送って貰う事に為るだろう』そこで通信は終了した。
テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学
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