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2008/03/19 (Wed) 22:11
国連安保理召集


◆小説:::deC(ディーイーシー)の野望◆<<11 ・<<10<<9<<8<<7<<6<<5<<4<<3<<2<<1

 第2次世界大戦後新たに創設された国連本部では,緊急の国連安全保障理事会が開かれた。重苦しい雰囲気の中,理事国の5人の代表が続々と理事会場へ入って来る。今回召集されたのは,アメリカ,イギリス,ロシア,フランス,そして中国である。更に参考人として,オーストラリアと日本の参加が命ぜられた。通常,非常任理事国は別としてオブザーバーが招集される事は無い。しかしそれが為ったのは,ロシアによる国連工作があったればこそであった。
 緊張の中,おごそかに開会が宣言される。第一の議題は,無論オーストラリア要人の拉致と日本の関与の否かだった。
 国連内部の元老院と言える安保理の構造上,今回の様なロシアが日本寄りの構図は従来ではあり得ない事態である。しかし,最近の日本によるロシアに対する戦略的パートナーシップの為の政治同盟は,そうした事さえ十分に可能とさせる事だった。一方アメリカは,事態が事態だけに半ば傍観に徹した。下手な事を言うと世界の日米同盟の威信が陥落する可能性が危惧されたのだ。
 そしてオーストラリアに回ったのはフランス,中国であった。
 フランスの代表が声を荒げる。「最初に言っておきます!我々は国際協調の為には団結しなくてはならない。過去の過ちを冒さぬ様,我々世界は誓った筈では無いか。我々は冷戦時代,何度も愚かとは言え,核戦争の危機に悩まされて来た。しかし,何(いず)れも世界の優秀な指導者達によって難を逃れて来た。だが,今回の日本の愚行はそれをないがしろ,...否,蹂躙したのである。来たる常任理事国入りを謳う国としては余りにも軽率な行為。支持国であるアメリカ合衆国の責任も及ぶと考える」
 中国の代表が続く。「その通り。オーストラリアは地理的に大いに重要な場所にあります。貿易,政治,経済,外交...あらゆる場面において南北半球の統合性を持たせる上で最も価値のある国の一つです。更にオーストラリアは,世界の平和に限り無く寄与して来たと考えます。人類の為,労を嫌ともせず平和活動に寄与した事実,誠の評価に値されよう。そんな偉大な国に,日本は何をしたか分かって居るのか。重大な犯罪行為である。断罪を要求する」
 「何を言うか」ロシアの代表が笑みとも取れる表情を浮かべながら反論した。「我々が過去数十年に渡って何食わぬ顔で行って来た行為をしただけなのに,それが日本だからと言って何故あなた方は日本人を嫌うのか,我々はふに落ちないで居る。我々はオーストラリアの人々の安全を気にかけますが,緊急の事態を我々は発見致しました。ここで,我がロシア共和国連邦にもたらされた情報と収集した物証を披露致したいが,許可をこう」全会一致で認められた。「ありがとうございます。――我が国の情報機関に届きました情報によると,オセアニア近海からインド洋,東南シナ海における範囲に複数の艦隊行動を感知致しました。通常訓練にあらぬ緊迫の事態で,別の情報から臨戦態勢に突入する布陣である事が確認されました」
 「それが何だと言うのです」中国代表が怪訝そうに睨み付ける。
 「我々は,この緊迫の事態に調査の為の艦隊と航空機を差し向ける事を検討しております」
 この発言に,他の4理事国の内,中国だけが動揺を見せた。他の国々はロシア軍は衰退したままである,と言う認識だが,中国は片時もロシア軍から目を放して来なかった。だからロシア軍の打撃力が相当数にまで達して居る事を非公式ながら認識して居るのだ。
 どうにか平静を保って中国代表がロシア側に尋ねる。「それで,その艦隊の所属は判明して居るのですか」
 「判明して居るが,ここでその詳細を明かす事は控えたい。現在,この情報は我が国の最高機密事項故である」
 アメリカの代表がやっと口を開いた。「オーストラリア高官の安否を貴国は知って居るか」
 ロシア代表が頷いた。「現在最終確認中だが,2名は射殺された可能性が高い。ここで特に要請しておくが,各国におかれては2名の射殺事実を殺害とは解釈しないで頂きたい。彼らは日本側の最重要証拠人として処刑されたのである」
 フランスが身を乗り出す。「つまり?」
 「日本側の意図するところは,交戦規定に準じたい意向と言う事です」
 「信じられない」中国側が声を荒げたが,誰に言う訳でも無く思わず動揺が口に出ただけだった。
 「確認しておきたい」アメリカ側が再び発言する。「今の申し出だと日本国とオーストラリアは交戦中と言う事だな。とすれば,ロシア共和国連邦の軍は介入する可能性がある,と言う事か」
 「可能性はある。ただし決定では無い」ロシア側の返答で,その場に集まった他の4人には十分過ぎる程の戦慄の確証を手にする事が出来たのだった。

 アメリカとカナダで最も重要な司令部は,ノーラッド(=NorAD)だろう。ノーラッドは,North american Aerospace Defense Commandの略で,北米地域(アメリカ合衆国のみでは無い)に該当するカナダとアメリカの空軍による防空頭脳の中枢を担う世界最大のレーダー基地である。
 元々はソ連からのミサイル攻撃に備え,迎撃から報復,防御を指揮する事を念頭におかれたが,ソ連からの攻撃以外に世界中の何処かで核実験が起これば,直ちに感知し監視する事も可能である。
 長らく平和そのものだったノーラッド司令部にも緊張が走る。ホワイトハウスからの命令で,アメリカ全軍の即応体制を強化する様求められた。平時の場合はDefence Conditionの意味のデフコンの数値が,5段階から1段階の内最も安全なデフコン 5だが,今は命令に従ってデフコン 4を発令されて居る。しかも更なる緊急性を高める事を目的に,デフコン 3の発動が見込まれて居た。
 指令室一杯の大型戦況モニターには,中部太平洋,インド洋,台湾海峡の艦隊行動が監視されて居た。現在確認された情報では,洋上で臨戦態勢にある6つの艦隊の内4つはフランスと中国のもので,それを牽制に出たのがロシアだった。だが,後方に控えるもう一つはどうやら自衛隊の艦隊らしい。
 「冷戦時代の頃の方がよほど安心出来ましたな」カナダ空軍の中将が皮肉を交えて言った。
 その言葉に,アメリカ空軍の大将は同意を念じた。「あの頃は核戦争が間近に控えて居たが,東西双方とも士官の士気が高かったから間違って戦争になる事は無かった。...だが,今は違う。テロリストや敵民兵を相手にして,緊張感が変化して居る。ロシアの爆撃機は後部銃座を上向きに変える事もしなくなったし,我が国の軍は最近停滞気味だ。戦後のイギリスの二の舞にならなければいいが」

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